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「…父…さん?」
ふと目覚めた時、働かない僕の頭の中には、そんな疑問が浮かんでいた。
なんて事はない。
夢の中に、父さんが出て来ただけ。
…でも、彼女は誰?
覚束ない足どりで歩く少女を、父さんが手を引きながら歩いていた。
そして、それを僕は見ていたんだ。
二人から、少し離れた所で。
少女は誰かに似ていた気がする。
誰だろう?
見た目は…そうだなぁ、思い出せない。
…あぁ、クレリノかも。
でも、決定的な『何か』が違っているような気がしてならない。
誰だろう。
そこで、ふと気付いた事がある。
あれ? そういえば…
可笑しい。
僕は父親を知らないんだ。
クレリノ?
一体誰なんだ。
僕が知っている人の中に、そんな名前の人は居なかったはずだ。
これでも記憶力は良いと思ってる。
…嗚呼、夢の中の少女はどんな容姿だったかな?
駄目だ、夢の内容はどうしても忘れてしまう…。
父さん?
知らないはずだ。
だって、僕は暗闇に産まれたんだから。
長い間暗闇を彷徨って、そしてやっと見付けた光から僕はこの世に生まれた。
そのあとも、僕を育てたのは、野生のドラゴンだったんだ。
父親と呼べる人なんて…。
それなのに、僕は…『父さん』?
「…ウィノ?…どうしたのさ、珍しく朝早いじゃないか」
ベッドの上に座り込んで頭を抱えていると、隣のベッドで寝ていたクルティが目を醒ました。
「何?具合でも悪い?」
「…いや、何でもないよ。ちょっと不思議な夢を見ただけ」
凄く心配そうな目をこちらに向けて来るので、何も無いと伝えておく。
だって、身体の方には何の不調も感じられなかったからね。
「…そう。なら良いけど」
そう言いながら、ベッドから降り、クルティは朝の支度をする。
…今って何時?
…午前6時丁度。
クルティ、お前こんな朝早くからいつも起きてたのか…。
僕はいつも10時位にならないと、起きて来ないからね。
うわあ、こんな早起き、久しぶり。
…かと言って、二度寝を出来そうに無いので、起きる事にする。
さっき何で悩んでたかは…
…忘れた。
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