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2-A教室。
教壇に教師が立っているというのに、どこか落ち着かない空気が流れていた。
ヒソヒソと微かに聞こえる話し声は、来たるべき聖戦に向け、ネタを仕込んでいるところなのだろう。
俺もボケるべきか、それとも、無難に済ませるべきか…。
頭の中で、リスクやら、リターンやら、プライドやらを足し引きしていると、隣人が小声で話しかけてきた。
「夏芽っ…、耳を貸せ」
「何だよ」
「一緒にふざけようぜ」
「嫌だ」
冷たく言い放つ。
ネタをするのは嫌ではないが、相方は選ぶべきだと、コイツに教わった。
松山佳祐。
昨年も同じように隣の席に座り、同じように話しかけてきた。
「お前は去年の悲劇を忘れたのか」
「あぁ…あれは酷かった。誰一人クスリともしなかったな」
「それは仕方ない。単発ネタじゃなくて被せて笑いを取るものだっただろ」
だけど、コイツは逃げた。
俺が捨て駒になったにも関わらず、スベるのが怖くなって保身に走りやがった。
「あのときは悪かった。だが、俺はもうあの頃の俺じゃない」
「だったら一人で頑張ってそれを証明してくれ」
話は終わりだとばかりに、身体を正面に向ける。
ちょうど、教師も話し終えたようで、自己紹介に移るところだった。
「出席番号一番の綾川から順に自己紹介していってくれ」
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