14th secret

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「馬越くん、武田さん。夕餉の時間のようです。 遅れれば鬼の雷が落ちてきますが、大丈夫ですか?」 鬼の雷、という隠語に顔を青くし、慌てて広間へ急ぐ彼らの後ろ姿を見送る。 ははっ。 土方さんの怒声は効果あるなぁ。 一人縁側に残り、手にした羽子板を見つめ、一振りしてみる。 ザシュ! …うん、悪くない。 密先生と正太郎くんとも羽根つきしたいなぁ。 お誘いしてみようか? 密先生の羽根つき姿、見てみたい気がする。 そしてその美しい顔に墨を塗って…。 ………。 「…これじゃあまた、土方さんと同じ助平じゃないか。」 と、一人呟き苦笑する。 癪だから、土方さん相手の時には容赦なく墨を塗りたくってやろう。 隊内で私に敵うであろう人物は、多分一人だけ。 入隊して間もなく鬼にその力を認められ、重用されている彼。 一度彼とはサシで勝負してみたかった。 羽根つきであってもそれは良し。 土方に並ぶ美男子に墨を塗るのは、さぞ楽しいことだろう。 そんなことを企んでいれば。 「総司ぃ! 近藤さんを待たせるなっ!」 鬼の雷が屯所内に轟く。 はいはい。 「私には効果ないのに。」 くすっと笑い、広間へ向かうその手にはもちろん羽子板。 近藤さんがいるなら、好都合。 年明けの羽根つき大会の許可を得よう。 土方さんも近藤さんの言葉には反対できないからね。 監察で忙しい彼も参加できるといいけれど。 味噌の香りをくんくんと嗅ぎながら、広間へと歩みを進める。 『信じているし、見ています。ちゃんと、あなたという人を。それで十分ですから。』 密先生の言葉を思い出せば。 温かさが胸に宿る。 そして欲も出る。 あの人の瞳に映るただ一人の男になりたい。 …日野 宗次郎としてではなく、沖田 総司として。 次にお会いしたときには、きちんと名乗ろう。 新たな決意を胸に、予想外の邪魔者と変態のことは頭の片隅へ。 ゆらりゆらりと雷様…違った、鬼の元へと向かっていった。
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