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「俺、宗次郎さん好きや。」
帰り道、正太郎がぽつりと呟く。
「密先生の言う通りや。どこの誰かなんて関係あらへん。宗次郎さんが宗次郎さんであることが大事なんや。だからまた…遊んでくれはる?」
不安げに見上げる正太郎の前に、宗次郎さんは跪き目線を同じ高さにする。
「…ええ、ぜひ。私もまた正太郎くんと密先生と会いたいです。次も、その次も。ずっとずっと。」
宗次郎さんはふわっと包み込むように微笑み頭を撫でれば、嬉しそうに笑みを返す正太郎。
そして立ち上がり、宗次郎さんが同じ微笑みを私にくれるから。
私も微笑み返す。
「…いつか教えて頂ける時がくれば、きっと宗次郎さんは教えてくれるでしょう? それでいいです。宗次郎さんのご判断を信じてます。」
「密先生…。」
人は誰しも秘密を抱えていて。
私もそれは同じ。
先の時代から来たことを、乾先生以外の人に言うことはきっとない。
だから余計に、偽名を使っていても、真剣に私たちと向き合ってくれる宗次郎さんを受け止めたいのかもしれない。
名前とか立場とか…時代とか。
そんなものに囚われなくても、互いに通じ合うものが確かにあるから。
「俺、ここがええ。」
小走りで正太郎が私と宗次郎さんの間に入り、それぞれと手を繋ぎ。
そして私たちの顔を見上げてニッコリと笑いかける。
宗次郎さんと笑みを交わしてから、二人で正太郎の微笑みに応える。
「では帰りましょうか、お気楽先生?」
陽気に笑いかければ。
「ええ、そうですね、みつおさん?」
なんてキラキラの笑顔で返してきて。
…イタズラっ子は今日も健在だ。
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