14th secret

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自分はそんなに寛大な方ではないから。 本来なら恋敵である時点で彼の話なんて聞く義理はないのだけれど。 素直な16歳の部下の淡い初恋だと思えば、話くらいはいいかな、なんて思ってしまう。 「僕は三男ですから、相沢姓を名乗ってもいいですね。 相沢 三郎。うん、ぴったりですっ。」 ………淡い、はず。 そして馬越の熱い思いに適当に相づちを打っていれば。 …ふと近付いてくる気配。 思わず出そうになった溜め息をぐっと飲み込む。 「おやぁ、これはこれは。沖田先生と馬越くんじゃありませんか。一体何の話を?」 「…武田先生。」 怯えたような馬越の声に、ようやくそちらに顔を向ければ。 私たちを舐めるように見下ろす長身の坊主頭の男。 武田 観柳斎(たけだ かんりゅうさい)だ。 名門軍学長沼流の教養があるということで、初夏の入隊後すぐに助勤・秘書役・兵学師範に抜擢された男。 学問面で近藤さんの絶大な信任を受けているのだが。 …如何せん、性格がすこぶる悪い。 陰険、臆病、傲慢、二枚舌。 これだけの悪質が揃っているなんて、人として逆に珍しいというのに。 「あぁ、馬越くん。今日も素敵な着流しだね。ちらりと見える足が堪らなくそそるよ。」 …更には私の大嫌いな男色家。 「その紅い唇も、繊細な指も。本当に美しいねぇ。…全部、食べてしまいたいくらいだよ?」 ……………。 夕餉前に、馬越で腹ごしらえ? おえっ。 ぶつぶつと出る鳥肌を擦りながら、粘りっ気のある武田の顔を見ないように努める。 そんな彼の一番のお気に入りは、何を隠そう横にいる馬越で。 立場上、上司である武田に強く出れずに、いつもはグッと我慢をしている気弱で真面目な彼なのだが。 今日の馬越は一味違った。 「武田先生! 僕は今日、運命の人に出会いましたっ! その人と結婚します!だから今後そういう発言は控えてくださいっ!」 …正確には断られているけどね、結婚。 そう、彼は自称運命の恋に出会っていたのだから。
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