20th secret

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ふわふわと真綿のように舞う、白く柔らかな粉雪。 積もりもせず、触れてしまえばそっと消え行くその様子があまりに儚くて。 なんだかさっきまでの出来事が、夢の中のことみたいに感じられるけれど。 ズキズキと酷くなる痛みに。 現実だったと思い知らされる。 身体と心。 …より痛むのはどっちなんだろう。 新撰組を出てよろめいてしまった私に、何も言わず背中を差し出してくれたキムタケ先輩。 その大きな背中に触れるところは確かに暖かいはずなのに。 心だけは凍えるように冷えきっていて。 寒くて。 痛くて。 辛くて。 ……………悲しい。 「…密ちゃん、大丈夫?」 眉を下げお紺さんが声をかける。 その横には同じく心配そうな顔をしたお妙さん。 二人の目には涙の後。 きっと、すごくすごく心配させたよね。 大丈夫、と頷き仄かに笑ってみせる。 二人とも何か言いたげにしているけど。 結局無言のまま。 ………二人の優しさ、ちゃんと伝わってきてるよ? だけど。 こればっかりは…自分で乗り越えるしかないんだ。 前を向いたまま大股で歩くキムタケ先輩も、きっと同じだと思う。 この人は特に。 ………目の前でその死に直面したはずだから。 「木村、相沢。」 マツジュン先生の声に、キムタケ先輩がようやく足を止め振り向く。 「今日は難儀だったな。だがな…引きずるなよ? 今日はゆっくり休み、明日よりまたしっかり努めよ。人が生きてる限り、我ら医者に立ち止まっている時間なんてないぞっ。」 優しくも。 厳しい言葉。 人の死に慣れることなんてない。 それでも………立ち止まることなんて許されないんだ。 「お妙さんは俺が送ろう。加賀屋、そちらはどうする?」 「私共は集まってくれはった面々へ報告に参ります。皆、ヤキモキしてはるやろうから。」 そうだ。 こんなにも奔走してくれた人達がいたんだ。 今は自分のことより、目を向けなきゃならないことがたくさんあるのに。 「…キムタケ先輩。」 とんとんと肩を叩けば、先輩も頷く。 静かに私を下ろし、姿勢を正し皆に振り向いた。 「松本先生。御足労と御配慮を賜り、誠にありがとうございました。先生にお越し頂けなかったら、こんなにすんなりとは事は終わらなかったと思います。…乾になり代わり、御礼申し上げます。」
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