2.空が割れた日

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「貴方、総司の名を  ご存じなのですね」 落ち着いたら口調で、 ゆっくりと話しかけるその人が 近づいてくる。 私の全身を上から下まで じっくりと見つめる。 「見れば……見慣れぬ服装を  纏ってらっしゃいますね」 二人の男性に凝視されて、 鞄を掴む指先に力が入る。 「申し遅れました。    私は山南敬助。    総司の殺しを目撃された  不可思議な衣を纏った貴女を、  野放しにすることなど 出来ないのですよ。  総司、その方を奥の部屋へ。  他の隊士たちに見つからぬうちに」 「はい。  始末の判断は、  上の人に任せますよ。  ただし……息の根を止めるときは、  僕に言ってくださいね。  僕の獲物ですから」 沖田総司。 山南敬助って……。 うそっ、 新選組の名前じゃない。 ってことは、 ここは……幕末? しかも、私の目の前で 人を殺すや殺さないや、 物騒な会話ばかりしないでくれない? って、マジ どうしたらいいのよ。 全国大会のお祝いに ケーキを食べに行こうとしてただけなのに。 こんなことに なっちゃうなんて。  逃げ出せる雰囲気も全くなくて、 そのまま総司と呼ばれた男の子に 連れられて、屋敷の中の奥の部屋に 放り込まれた。 「君、動いたら殺すから」 クスリと相変わらず、 笑いの含んだ顔で告げて部屋を出て行った。 一人になった真っ暗な部屋。 シーンと静まり返った 暗闇に耐え切れず、鞄の中から、 携帯電話を取り出す。 携帯画面のライトが、 周囲を薄明りで照らし出す。
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