4.子猫と呼ぶ人 

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「夜の京は物騒なんや。  女の子一人で人探しなんか  するもんちゃうで」 「でも……」 「わかったわかった。    子猫、拾たんオレやから、  責任もって面倒みたるわ。  花桜の友達、探すんも、  手伝う(てつどう)たる。  だから、そんな思いつめた顔しなや。  可愛い顔してんのに、そんな顔しとったら  だいなしや」 山崎さんはそう言うと私に笑いかけた。 それと同時に、手刀が入って 鈍い痛みと共に私は意識を失った。   * 「花桜っ、花桜っ起きて」 誰? 誰かが体をゆっさゆっさ……してる。 そして……次の瞬間、 身の危険を感じて慌てて飛び起きると 危険物を素早く受け止めた。 「あっ、瑠花……」 「ったく、花桜。    あっ、瑠花じゃないわよ。    アンタ、良く今の状況下で  寝られるよね」 寝られる? 何? ここ、何処? 慌てて、キョロキョロと見渡すと、 破れかけた障子に時折、隙間風の入る一室に へったんこの布団を敷かれて 眠らされてたらしいことに気が付いた。 「君たち何話してるの?  怪しい動きしたらすぐに殺すよ」 まだ幼さの残る冷たい声が 部屋の外から響いてくる。 そして……次に姿を見せたのは、 山崎さん。 屋根から、またまた足音を立てずに 部屋の中に入り込むと言葉を発しようとする 私と瑠花の口を一斉に塞いだ。 『まてや』 待てや。 『さっきは わるかった』 さっきは悪かった? 声を発せずに、口を動かして 言葉を伝える山崎さん。 『ここは   おれのしごとば』 ここはオレの仕事場。 『えらいひとには  かおのこと  はなしてきた』 えっ? 偉い人に、 私のことを話してきた? 『だから、かたのちからをゆるめろ』 だから肩の力を抜けって。 「肩の力を抜けって  バカいってるんじゃないわよ。  こんなとこで、肩の力なんて  抜けるわけじゃないでしょ」 ささやき声でまくしたてる。 『おちつきやー。  おとなしい  しとったら  なるよーにしたるから』 それだけ告げて、山崎さんは、 また一気に屋根の方に消えてしまった。
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