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「こっちが何事かと思ったよ! なんで男子トイレに女子がいるんだ!?」
「そんなことはどうでもいい。お前、名前は?」
俺にとってはどうでもよくはなかったが、反論しても無駄そうだったので渋々自己紹介する。
「……俺は明星 翔。今日この学校に入学して来た一年だよ」
目の前の女の子は「ふむ、ならば……」と何やらぶつぶつ言って考え事をしているようだった。
「それで君の名前は?」
俺だけ自己紹介して相手がしないのは不公平だと思い、自分から聞いてみる。
「私か?私は―――」
ゆっくりと口を開く。
そして発せられた言葉は……
「―――私は花子さんだ」
「へぇー、花子さんか。最近じゃあ結構珍しい名前だよな」
「最近の人間じゃないからな」
「え?」
「私は人間の魂を元にして出来たトイレに住む妖怪、花子さんだ」
はい?
「花子さんってあの? 学校のトイレに住んでるっていう」
「そうだ」
「トイレの三番目の扉に呼び掛けると返事が返ってくるっていうあの?」
「よく知ってるな」
「……ぷっ」
「………?」
「アハハハハハ!は、花子さんって……だって君、今の時代そんなのあるわけないじゃないか!ハハハハハハ!!」
つい腹を抱えて笑っていると一つのことを思い出した。
「うぐっ!お、お腹が……」
花子さんと話していて忘れていたが俺のお腹はもう限界寸前だった。
「じゃあ花子さん。俺はこれで」
「待て」
トイレに入ろうとした俺の腕を花子さんが掴む。
「翔と言ったな。貴様、私を馬鹿にするとどうなるのか、知っているか?」
「いいや、全然」
「こうなるんだよ!!」
花子さんが指をパチンと鳴らすと、俺の腹の痛みが倍に増した。
「ふぐぅ……な、何をした?」
「私はトイレに住む妖怪だぞ?これぐらいは楽勝だ」
「この、お、覚えてろよ……」
俺は静かに男子トイレに入って行った。
「くそっ!何なんだアイツは!!」
用を足し、手を洗っていた俺は思わずつぶやく。
「だから花子さんだと言っているだろう」
振り返ると、そこにはおかっぱに赤いスカートの花子さんが立っていた。
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