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「そんなの信じられるか」
「おや、さっきのを体験してまだそんなことを言うのか」
「あれは偶然、俺の腹が痛くなるタイミングと指パッチンのタイミングが合っただけだ」
「ふむ、ならば」
花子さんがまた指を鳴らす。
「うぐぅ!!」
また腹に先程のような激痛が走る。
「これで信じるか?」
「わかった……。わかったから早く治してくれ」
分かればいいのだ、と花子さんはまた指を鳴らして元に戻す。
「花子さんは、なんで男子トイレに?」
「何故と聞かれてものぅ。気がつけばここに住んどった」
「記憶がないんですか?」
「多分、私が生まれた場所がここだったんだろうな。だから基本的にここに住んでいる」
「男子トイレなのに?」
「私は自分の意思で姿を消せる。それに長く生きたせいか、性別などは気にならなくなってしまったな」
そこで俺にある疑問が生まれた。
「今姿を消せるって言ったけど、なんで俺は君を見つけれたんだ?」
花子さんは小さく嘆息して僕の方に向き直った。
「この時間、誰もここに来るはずはないんだ。まだ登校するには早いし、先生だって職員用のトイレを使う。だから油断して気楽にしていたら―――」
「俺が現れたと?」
花子さんはゆっくり頷き、真剣な眼差しで僕を見つめる。
「本来、姿を見られたときは相手を殺すか、記憶を消すしかない。だが、私だってそんなことはしたくないんだ。何よりめんどくさいしな」
なかなか先の見えない話に俺は痺れを切らした。
「俺は、どうなるんだ?」
そこで花子さんが静かにそう、はっきりと告げた。
「お前、私の恋人になれ」
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