しのびよる光

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もう話すことは何も残っていなかった どの言葉からも真実が抜け落ちていて 口にする度に心の中を 冬枯れの木立の様に 冷たい風か吹き抜けていた しかし それ以上に凄まじいのが 真向かいに居る もう一人の変容ぶりだ その言動ひとつひとつから 虚しいまでに 真実への執心が消え失せている 言葉の中から 真偽を聞き分けようとする 些かの意思も伝わって来ない 結局 会話の意味を 失なってしまったと言うことか ただ二人の間に屍の様な 沈黙が横たわっているだけだ そしてそこに 真実は欠片すら見当たらない   明と暗しかない世界では ひとつ小さな傷を付けただけで 真実は脆くも崩れ去り 何もかもが虚妄となる そこでの真実とは常に頭の上で 光り輝いていなければならないものだ しかし 泥に汚れた真実でもいいのか それとも 泥など見えないとでも言うのか 汚れてなどいないと言い張るのか 空しく散った思いが 目の前で 音を立てて蒸発している    
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