とある出逢いのお話

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僅かに疑問符はついたものの、彼女の目に映っているものは紛れもなく、人の形をしている。 だが、境内とはいっても其処は本殿でも拝殿でもなく外れも外れ、こじんまりと佇む小さな祠。『縁結び』と書かれた札が細やかに掲げられた古い社だ。 そのすぐ下に、その人らしきものが、うずくまっている。 「…縁結びの、神様…?」 一人で小さく呟きながら、巫子はゆっくりと近付いた。 そして 「…貴方は神の化身ですか?それとも、ただの野良犬ですか」 凛とした口調で、そう言い放った。 ぴくりと、うずくまった背中が動く。 巫子は竹箒を両手に持ち直し、いつでも闘えるぞと言わんばかりに身構えた。 だが… 「…は…腹へった……」 返されたものは、その言葉ひとつ、ただそれだけだった。 「……」 巫子は返す言葉もなく、拍子抜けしたように竹箒を下ろした。 見たところ、相手は青年…いや、少年かもしれない。歳はまだ若いだろう。腕には立派な大剣を抱え込んでいるが…全くもって敵意が見受けられない。闘う気力は愚か、もはや動く気力すらない様子だ。 相手が女だと思い見くびられているのかと、巫子が再び戦闘態勢をとってみても、少年はただ背中を丸めたまま、動こうとしない。 そして 「……死ぬ…」 彼は最後にそう言い残し、 力尽きた。 「っあ~!生き返った!!」 数十分後、何とか息を吹き返した少年は、室内に居た。 そこは畳の香りが心地好い和室。綺麗に整えられた、十畳程の部屋だ。 部屋の端には美しい大木を描いた水彩画の掛け軸、そのすぐ下には色鮮やかに飾られた生け花。無駄なものは何もない。しんとした空間に、小鳥の囀ずりだけが響いている。 開け放された障子の外には居心地の良さそうな縁側があり、その先には庭園が見える。そしてそこには、紅葉(こうよう)で色付いた立派な大木が聳え立っていた。 「……綺麗な処だな」 小さく呟き、少年はぐるりと辺りを見回した。 部屋には自分以外の影はない。気が付けばこの部屋に居て、目の前には美味そうな料理が並べられていた。 ご馳走とまではいかないが、温かみのある家庭料理だった。
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