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良い匂いに誘われて目を覚まし、『どうぞ』と言われたので遠慮なくそれらを戴いた。
だが食事に夢中のあまり、全て平らげるまでその恩人の姿がなくなっている事に気が付かなかった。
「えーと……ご馳走さま」
仕方がないので、とりあえず、誰にともなく手を合わせてみる。
それから、再び辺りを見回した、その時。
「……?」
少年の目に、何かが映った。小さな影……一瞬ではあったが、小さな子供の姿をしていたよう に思う。
「あっ…おい!」
だが、咄嗟に身を乗り出し声をかけた時
「あの子が、何かしましたか?」
唐突に聞こえた声に、少年はピタリと動きを止めた。
振り向けば、そこには巫子姿の女が一人。茶の盆を傍らに、そっと部屋へ入るところだった。
「あ、いや…別に……」
彼女が、料理をご馳走してくれた恩人である事は解っている。だがいきなり過ぎる再登場に、何と返して良いものか分からず少年は言葉に詰まった。
そうやって彼が戸惑っていると
「…いらっしゃい小町。そんな所に隠れていないで、ご挨拶をなさい」
静かな物言いで、巫子はその子供が隠れているであろう襖の陰へ声をかけた。
すると、
「……」
案の定その場から小さな影が顔を出し、パタパタとすぐ近くまでやって来て、そのまま巫子の背中に貼り付いた。
座った状態のその背中にすっぽりと隠れてしまう程小さなその子は、紅い着物を着た可愛らしい少女だった。
「…小町。ご挨拶は」
巫子の短い言葉に、少女はちらりと顔を出す。だが少年と目が合った瞬間、その姿はまた巫子の背中へ重なって消えた。
「……小町」
もう一度呼ばれ、再び顔を出す。だが半分だけ顔を覗かせた状態のまま、何も言葉はない。
しかし今度はじっと彼の顔を見つめ、
「いや、別にい…」
少年がそう言いかけたところで、少女はぺこりと小さくお辞儀をして見せた。
その様子を確認した巫子は、ふぅと一つ息を吐き、少女に向き直る。
「小町。お茶を注いで差し上げて。…できるわね」
彼女が優しく頭を撫でてやりながら言うと、少女はこくりと頷き、茶の盆へ手をかけた。
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