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「あ…ちょっ…」
小さな子供の手に、熱い茶の乗った盆。さすがに危険だと判断した少年が身を乗り出すが…驚いたことに、少女は何の恐れもなく彼のすぐ傍らに運び、美しく礼をした。先程の軽い挨拶とは違う、しっかりと礼儀作法を纏った一礼だ。
そしてゆっくりと盆の上で茶を注ぎ、それをまた整った仕草で彼の元へと差し出した。
「あ…どうも……」
複雑な心境で受け取るが、何故か、じっと顔を見つめられている。飲まないのかとでも言うような顔で、ただ見つめられている。
実に、気まずい。
少年は視線を逸らし、一つ咳払いをした。そして熱々の茶をとりあえず口へ運び
「……ああ…美味い!」
そう言って笑った。
すると少女は、それを見るなり明らかに頬を紅潮させて立ち上がり…そのまま、何も言わずにパタパタと部屋を去って行ってしまった。
「あれ…俺、まずいこと言ったか…?」
少女が去った後に、気まずさだけが残った。少年は頭をかき、目を細める。
「…恥ずかしがっているだけです」
だが、巫子はあまり気にすることなくそう言うと、卓上に広げられた食器を手際よく片付け始めた。
「あ!料理、ありがとな!!すげぇ美味かった!」
「いえ、大したものではありません」
少年はそこでようやく恩人に礼をできたわけだが…相手はそれすらも何とも思わぬように淡々と片付けを続けた。
「あんた、名前は?」
だが、少年もあまり気にしない。
「…人に名を尋ねる前に、まずはご自身が名乗ってはいかがですか?」
「ああ…!」
そして冷たく返されたにも関わらず、
「俺は笹羅!!あんたは?」
少年はそうやって言われた通りに名を名乗り、もう一度彼女の前へ身を乗り出した。
さすがに、巫子は動きを止めてふうと一つ息を吐いた。
「…椿です。ご覧の通り、この神社で巫子をしています。先程の子は小町、私の娘です」
要点をぎゅっと詰めた、自己紹介。少年は満足そうに笑い、右手を差し出した。
「宜しく!!」
おそらく、握手を求めているのだろう。巫子…椿は再び小さく息を吐き、その手をとった。
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