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「…笑った!!」
だが、そんな笹羅の素直な反応に、その笑顔は数秒と保たずに消えた。
「…笑わぬ方が良いですか」
「あ…いや別にそういう意味じゃねーって!」
笹羅はぶんぶんと首を振って否定するが、残念ながら彼女の笑顔は戻らず
「あ、分かった!その人って、旦那だろ!」
「……」
「…そういえばっ今は留守か?」
「……」
返事すらいただけなかった。気まずい空気に再び頭をかく笹羅。だが…
「そうですね…ご想像にお任せします」
言葉は、意外と早く回復した。
「主人は冬の国で医者をしています。忙しい人なので、此方にはいません」
しかしそう淡々と口にしながら、椿は食器の乗った盆を手に立ち上がった。
「離れて暮らしてんのか…」
「ええ、色々ありまして。此処では私の父と、小町の三人で暮らしています。…では、失礼します。どうぞ、ごゆっくり」
「あ…ちょっ…」
そしてそのまま、笹羅の言葉もろくに聞かず、椿は部屋を出て行ってしまった。
…また、実に気まずい。
「何だよ……禁句、だったか…?」
小さく首を傾げながら、笹羅はひとり、そう呟いた。
「……饅頭」
彼を残し部屋を後にしてから、椿は勝手場へ向かった。そして食器の片付けを済ませてから、ふと目をやった茶箪笥の上段。
今朝まではそこに在ったはずの、茶菓子の饅頭が見当たらない。
「まあ……」
棚のすぐ下には、どこからか見つけ引きずって来たのであろう、大きめの木箱。饅頭を目指し上に乗るとして、小さな子供でもちょうど良い踏み台になる……犯人は、考えるまでもなかった。
「あの子が…珍しい」
そう呟いた椿の口元は、くすりと小さく、笑っていた。
そして木箱を隅へ動かし、静かに勝手場を後にする。
本日の客人は二人。一人は笹羅だが、もう一人は……
「…もうお帰りですか?」
だがそちらの様子も窺おうと思っていたそばから、椿は部屋の外で客人と遭遇した。
神主である父が、上客を招き入れる際に使用する部屋だ。
「ああ、用は済んだ。邪魔をしたな」
簡潔にそう答えると、客人は僅かに口元を緩めて笑った。
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