星、公園、原付

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 星を見に行こう。急にそう思い立った。  ダウンとマフラーを身に付けて、原付の鍵を探す。どこに置いてしまったのか、自室には見当たらない。昔からよくあることだ。大抵近くにあるのにそれが探し出せない。この前は忘れないようにとバッグに入れていたのにそれを忘れてしまっていた。  結局ありかはダウンのポケットというおちで、学習しない自分を殴ってやりたくなる。  そろそろ真剣に何とかしないと行けないな、と呟きながら部屋を出てアパートの駐車場に停めてある原付に跨がった。  目的地は近くの公園だ。歩きで行けないこともないが、それだと道中に行く手を阻む坂を登れない(上る気力がない)。エンジンをかけて、出発。徐々に加速していき、頬にぶつかる風の冷たさが嫌になる。記憶に従い、道路を駆けていく。  公園は小さな山の斜面を切り開いて作られている。サッカー場が作れるくらいの敷地があって、殆んどが遊歩道となっている。遊具もほとんどなく、主だった利用者は走りにきた中高生というのが現実だ。子供が笑ながら駆け回るという光景には今だかつて出会ったことがない。結構な頻度でここに来ているから、それでも目にしないということは子供はここを利用しないのだろう。遊具もブランコだけだし、山だし。  入り口に原付を停めて、公園内を突っ切る。お気に入りの場所がある。そこを目指していた。  お気に入りの場所とは敷地の奥に設置されたベンチのことだ。三人掛けくらいの大きさで、そこから開けた景色を一望できる。麓には小さな町があって、夜になるとそこだけ夜空を写したみたいで幻想的だ。冬という季節も澄んだ景色を作る要因として一役かっている。それに人がいないというのもお気に入りの理由だった。 「少し早かったかな」  というか早すぎた。  まだ夕方だ。日も落ちていない。世界が闇に包まれるまで一時間はあろうかという時分だった。衝動的すぎた。  まあ家にいてもやることもないのだ、ここで星を待つというのもなかなか風流だろう。凍えるほど寒いけど。
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