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――安政三年三月。
時は江戸。
初春の暖かい風が吹き抜け、桜の蕾が木々を桃色に染める。
ここ、深川佐賀町北辰一刀流剣術の伊東道場に一人、藤堂平助と名乗る者がいた。
俺は何のために生まれてきたのか?
平助は日が暮れど日が暮れど考えた。
「己のようないやしき隠し子が何故に剣を握る」
道場の兄弟子達に、そう言われてもう十二年の時が経つ。
平助は生まれてすぐ伊東道場の片隅に捨てられていたので、歳もちょうど十二だ。
道場主の伊東精一によれば、赤子の平助は名刀「上総介兼重」と一通の手紙が添えられて置いてあったという。
その手紙には、平助の父は藤堂高猷であると書かれていた。
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