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終わった。
彼、黒槻蓮(くろつきれん)は、客観的に見てそう判断した。いや違う。判断せざるを得なかったのだ。
例えば崖から脚を踏み外して転落を始めた瞬間だったり、身動きが取れない場面で頭上に岩が落ちてきたり。そんな絶体絶命の場面さえも超える程に、深く明確な絶望。彼が感じたのは、そういう言葉に出来ない感情だった。
「お嬢様……。この腕輪を、外して下さい」
蓮は少し離れた場所で横たわる、彼の最も大切な人、白峰遥華(しらみねはるか)に懇願(こんがん)した。
蓮がしている、複雑な迷彩柄にも似た、少し特殊な幾何学模様の腕輪はいわゆる封魔効果を備えている。この腕輪があるから、彼は全力を出せない。しかしその腕輪は、主人である遥華が命じなければ解錠されない。
しかし彼女は、頑なに首を横に振った。
「それを外したら、貴方は、どこか遠くへ、行ってしまうでしょ?」
「!?」
虚な、しかし悲しそうな目だった。
雪のように白い肌に、所々深い切り傷がある。苦痛に悶えながらも彼女は、その状況を打破し得る唯一の選択肢を選ばない。
何故? 考えてみても蓮には解らない。
蓮は辺りを見回した。
崩れた建物の瓦礫の山。どこからか引火し、消火システムが間に合わない程の強さで燃え上がる炎。半径50メートル程を囲う、ドーム状の煉獄のような壁。――その中心に居る、化け物。
化け物は1体だった。
太古の覇者ティラノサウルスを思わせる姿に、人工的な装備を身に纏っている。
それだけではない。人工的な装備はどれも統一性の無い幾何学模様が描かれていた。
あれはいわゆる魔法陣だ。
複雑さからしてかなり強力な魔法。装備ごとに異なる事から多様な意味合いを持たされた魔法。それに加え、強靭な肉体。
現状で勝ち目は無かった。
いかなる策を講じようと、全力の魔法及び肉体攻撃を仕掛けようとも、その化け物には届かない。
効かないのでは無く、届かない。
圧倒的に馬力が違う。ミニカーがレースカーにスピード勝負を挑むような物で、まさしく次元が違ったのだ。
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