――とある少年の場合

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――とある少年の場合

背中に感じる感触で目を覚まし、そっと辺りを窺う。 (おい、起きろって。中島の奴、お前を見てるぞ) 〝中島〟というのは保健体育の教師で、「女子よりも男子の方が好き、特に寝顔とか」と公言している変態教師で、当然男だ。 僕はどうやら中島の「好み」らしく、いい迷惑だ。 ずるずると体を起こし、ニヤニヤと気持ちの悪い笑顔を浮かべている同級生どもを睨みつけ、照りつける太陽を鬱陶しく思いながら運動場を見る。 体操服の下級生たちが右へ左へと走りながらサッカーをしている。 授業終了のチャイムが鳴り響き、今日も一日が終わっていく。 「センセー、さようなら」 甲高い声が響き、少しずつ教室が静かになっていく。 「はい、さようなら」 担任の教師も応えながらプリントをまとめて、教室を出て行く準備をしている――でも僕はまだ、運動場を眺めながら席に着いていた。 ボンヤリとした黒い影が、運動場の中央に立っている。 (まだ居るのか) あれがなんなのか、僕は知らない。 みんなには見えないのか、見えてても知らない振りをしているのか、どっちでもいい。 あれは確かにあそこにいて、僕にはそれが見えている――それだけだ。 教科書をランドセルに投げ入れて蓋をして、黄色い通学帽を右手に持って最後に教室を出る ――いつもと何も変わらない毎日。 テレビや漫画のような劇的な何かなんて、世の中にはそうそう無い。 突然僕の前に妖精が現れることなんてありえないし、想像もつかないような出来事に巻き込まれることなんて一切ない。 世の中はそんなふうにできてる――だから僕は願い続けるんだろう。 「こんな世界、壊れてしまえばいいのに」
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