それは普通の昼下がり

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  「ふぅ、疲れたぁ」 薄暗い階段を駆け下りて、俺は思わず息を吐く。 古びたコンクリートの建物を出れば、暑い夏の象徴たる太陽の光が真正面から俺を照らしてきた。 どこからともなく響く無数の蝉の声。 いくら扇いでもじっとりと肌に張り付いてくるシャツ。 こんな炎天下の真夏日に、何で寄りにもよってこの団地への配達があるんだと、俺は文句を言いたくなった。 エレベーターの設置されていない五階建ての団地は、長く宅配便の仕事をしている俺から見ても、五本の指に入るほどハードな配達先なのに。 息を整えながら、自販機でコーヒーを買う。 まだ配達は沢山ある。 休憩と水分はしっかり摂らなきゃならない。 団地の庭では、この暑い中でも子供達が元気に遊んでいる。 昔は俺にもあんな元気があったんだなあと、ちょっとだけ感傷に浸り、俺は車に戻った。 残りの配達、さっさと終わらせて、早く家に帰ろう。 そして、俺も我が子と目一杯遊ぶんだ。 自然と逸る気持ちを心地よく感じながら、俺は車に乗り込み、シートベルトを付け、エンジンをかける。 そしてそのまま、ゆっくりと車を発進した。 ――ぐちゃ 「……ん?」 確かに感じた感触を、俺は認めたくなかった。 いや、感じたといった表現は適切じゃないだろう。 だって、今も感じているのだから。 ――この、車の下に……。 「いやあああああああ! 優斗ぉぉぉぉ!」 耳をつんざくような、女性の声。 ――頼む。嘘だと言ってくれ。 頼む、頼む、頼むよ……! そう願う俺を嘲笑うかのように、アスファルトが段々と朱に染まっていくのが見える。 それはそのまま、俺の日常の崩壊を表していた。
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