押しつぶされた幸せ

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  「まず、三日前ですが彼が歩いているところに土手から大きな石が落ちてきて、非常に危ない目に遭っていました。更にその二日前にも……」 スラスラと説明を始める女に、俺は戦慄を覚えた。 一体この女達はいつから俺たちをマークしていたのだろう。 確かに、この女の言っていることはある程度の説得力があったし、俺も大いに頷けた。 しかし、目的も何も不明の怪しい人間であることには変わりないのだ。 金銭も要求せずにボランティアでここまでのことをするなんて、些か不自然な気もする。 そんな疑念を読み取ったかのように、ショートへアの女性が口を開いた。 「ご安心ください。私達は犯罪被害者の皆様がこれ以上辛い思いをしないように、独自に動いているだけですから。今回ここに来たのも、あなたに現状を知ってもらいたいと思っただけですので、これからも私達は今までと同じようにやっていきます。あなたに迷惑はかけませんよ?」 静かに告げる言葉はあまりにも慈愛に満ちていて。 今の荒んだ俺の心では、素直に受け止めるのに抵抗が生じるほどだった。
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