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「はぁ。黒崎さん、ですか」
艶やかな黒く長い髪を同じようにポニーテールにして束ね、同じように浅葱色の羽織を、新撰組のそれを羽織って和服(袴って言ったっけ?)を着込んだ目の前の美人さんは、目が合った数秒後ゆっくりと名前を聞いてきた。
それをゆっくりとけれど確かに咀嚼するように口の動きだけで『黒崎、さん』と呟いたのを見る。
『えーと…お名前を伺っても?』
『?黒崎です』
ついさっきのことだ。
遠慮がちに問われたその意味が分からなくて、新撰組ファンとして同盟結成ですかみたいなことをちらりと考えもしたけれど、美人さんの表情が怪訝そうだったので言い出せなかった。
迷ったように視線をさ迷わせた後、やがてその美人さんは意を決したように顔を上げ、口を開いて息を吸った。
その瞳に、冗談やからかいの色はない。
長年演劇というものに関わってきたから、分かる。このひと、本気だ。
「すみませんが、何番隊ですか?私、あなたのこと知らないんですけど」
「何、番…隊?」
え、これ、本気ごっこですか?
咄嗟に口をついて訊きたくなったのも、仕方がないことだと思う。
だってそんな質問、まるで。
本物の、新撰組、みたいじゃない。
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