……序章……

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「サブロウ…ここはなんという国か?」 サブロウと呼ばれた男は、カラ国の言葉で同じことを通訳に聞いた。 通訳はまた別の言語で別の通訳に聞く。 その通訳は、グレース語でまた別の通訳に聞いた。 ここは、モーラ帝国にはオリエンタルと呼ばれる東方の地域。 だが彼らは、さらに遥か東から旅を重ねてきた。 「殿、ここは『モーラ』という帝国の領土と、『パルテス』という王国の領土の、境界辺りです。 ここよりさらに西に進めば、モーラ帝国の広大な世界が拡がるそうで」 「そうか…。しかし、ヤマトの外はこんなにも広かったのか…。 兄上から逃れるためだけにヤマトを出たが、我ら兄弟の争いなど、ほんの小さなことに感じられる…」 「殿、ヤマトを出てからその台詞、何百回聞いたかわかりませぬ」 別の供が苦笑いして言う。 彼は、カオルといった。 殿と呼ばれる男は、大将軍となった兄に疎まれ国を出た、カミシマ・トシミツ。 伝承では皆、兄の軍に依って滅びたことになっている彼と彼の四天王のうち二人は、ヤマトの最北・エゾより船出し大陸に渡り、遥か西洋まで旅をしていた。 カラ国を出て天竺へ入った頃には追っ手の心配もなく、行く先々で通訳を雇っては西へ西へと当てのない旅を続けていた。 モーラ帝国領へ入ってさらに半年後、彼らは帝国の首都・モーラへ辿り着いた。 トシミツ、30歳の春だった。
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