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昔々、あるところに…
…何かアバウトだね、ごめんね。
昔々、あるところの山中に。
前線を退いて早数十年、かつては"鬼殺しの弥吉"と恐れられていたお爺さんと
大して何の取り柄もなく、特技は細かい作業という器用貧乏なお婆さんが住んでいました。
二人は若い頃、子に恵まれず、街中で暮らしていると子供をさらいたくなってしまうため、こんな人気のない山中に暮らしているそうな。
「ちっ…酒がきれたか。おい、ばーさん!ちょっくら下山して、酒買ってきてくんろー!」
昔の英雄も今となってはただの呑んだくれ、すっかり酒に溺れた生活を送るお爺さんに、お婆さんは怒りを通り越して呆れ果てていました。
「やれやれ、昔のあんたはかっこよかったのにねぇ~」
お婆さんがそう溜め息を漏らすと、ほろ酔いのお爺さんは負けじと言い返します。
「うるせぇやい。お前だって昔は、あんなにいい女だったのによぉ~…今となっちゃ…今となっちゃ猿の干物じゃねぇかぁ!うぉーん!」
そのまま泣き上戸に入るお爺さんを尻目に、お婆さんは小屋を後にしました。
外に出て下山するお婆さんの目は、うっすらと涙ぐんでいるようにも見えました。
「あたしに子供が出来ればねぇ……」
冷えた夜の山を下るお婆さんの背中は、何て寂しげなんでしょうか。
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