ようこそ香霖堂へ

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目が、覚めた。 何が起こったのかは理解出来ないが、どうやら気を失っていたようだ。 まだどこかぼんやりとした意識で周囲を探ると、どうやら僕が居るのは建物の中らしい。 読み方は分からないが外にある看板に書いてある『香霖堂』というのが建物の名前だろうか。 名前からすると店のようだが、建物の外やら中やらに置いてあるガラクタのような物は商品か。 どう見ても過去の遺物としか見えないものばかりだが。 それに建物の主らしき人の気配も感じられる。 眼鏡をかけた白髪の男性。 恐らく僕はこの男性に助けられたのだろう。 お礼を言わなければ。 そう思っていたら丁度その男性がこちらに来るのが分かった。 「まだ目が覚めないか…」 別の部屋からやって来たその男性の言葉で、自分がまだ目を開いていないことを思い出す。 「起きて…ます」 そう言い、見えない目を開く僕。 男性が少し驚いていたのが理解できた。 「なんだ、起きていたのかい?」 「はい」 「どこか痛む所は?」 「ない…です」 実は痛覚も失っているので当然ではあるが。 「そうかそれは良かった。僕は森近 霖之助。ここ、香霖堂の店主だ。」 なるほど、あれはコウリンドウと読むのか。 それはさておき、僕も自己紹介をするべきだろう。 「東海林……琢磨」 東海林と書いてショウジ。それに切磋琢磨の琢磨。それが僕の名前である。 決して東海林をトウカイリンなどと読まないように。
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