ようこそ香霖堂へ

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「それと、暫くの間ならここに居てもらっても構わないよ。琢磨君を拾ってきたのは僕だしね」 「いいの……ですか?」 それは願ってもないことだ。 「勿論さ。ただ僕もそこまで裕福ではないからね。ある程度落ち着いたら君の住む場所や仕事を探しに行こうか」 確かに店の様子からして繁盛しているとは思えない。 それにも関わらず僕を居候させてくれて、更には家探しや職探しを手伝ってくれるなんて。 至れり尽くせりとはこの事か。 いい人過ぎます、霖之助さん。 「ありがとう……ございます」 「いやいや、礼には及ばないよ」 そういう訳にもいかないのですが。 「まあとにかく仕事や家の話はまだ先の事さ。暫くは君もここに住むのだし、色々と話を聞かせてくれないかい?」 「はい」 僕は今までの事を話した。 失った感覚。 得た能力。 今までの暮らし。 家族の死。 霖之助さんは舌足らずな僕の話をしっかりと聞いてくれた。 「それは何と言うか、不運としか言いようがないね」 ええ、本当に。 だからと言って悪い事ばかりでもないのだけれど。
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