普通の魔法使い、即ち、泥棒

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「ところで琢磨君、明日店番を頼めるかな?」 時は夕食の時間。 飲食は可能と判明したので必要はないが食事はとっている。 心が落ち着く平和な空気だ。 そんなのんびりとした雰囲気の中でそう尋ねてきたのは霖之助さん。 「はい。用事ですか?」 声を出すことも大分スムーズにいくようになった。 特訓の成果である。 尤も、それでもまだ口数は少ないのだろうけど。 「うん。琢磨君の話を人里に通しておこうと思ってね」 成る程。僕の為か。 「ありがとうございます。」 「気にしなくていいさ。まあ店番と言っても琢磨君の知る通り、客が来ることもあまりないから大丈夫だろう」 「はい」 今まで数回店番をしたことがあったが、その時に客が来たことはない。 常連さんも何人かいるようだが、その人達も僕が来てから一度も来たことはない。 だから今回も何事もなく終わるだろう。 なんてフラグめいた事を考えてみたり。 そして夕食も終え。 「御馳走様でした」 「お粗末様でした」 「皿洗います」 「ああ、お願いするよ」 さあ、皿洗いの時間である。 いきなりではあるが、恐らく僕には中々の皿洗いの才能があると自負している。 それは偏に能力のお陰なのだけれど、それが才能というものだろう。 能力で複数の皿を同時に洗い、そして第六感により僅かな汚れすら把握し見逃さない。 まさに完璧な布陣。 とは言え二人分しかないのでその才能があまり発揮できないのが残念な所だ。 皿洗いの後はいつも通りに表情の特訓をして、いつも通りにうまくいかなくて。 そんな感じに僕の今日は幕を閉じた。
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