プロローグ

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僕には感覚が殆ど無い。 寒さのせいで、とか、金銭についての、とかではなく、そのままの意味で感覚が無いのだ。 つまる所、僕の味覚、嗅覚、聴覚、視覚、そして触覚。その五感を含む身体の感覚の殆どが全くと言っていい程に機能していないのである。 原因は原因不明の病。 要するに、原因不明。 医者も両手を挙げるであろうそれは、それまで普通の学生だった僕の日常をあっという間に塗り替えていった。 最初は少し感覚が鈍った程度で、少し調子が悪いのだろうと気にも留めなかった。 しかしその数ヶ月後にはそれは日常生活にも支障が出る程に悪化。 病院にも行ったが先に述べたように原因不明。効きもしない薬を出されて終わる。 そして更に数ヶ月後には感覚の殆どが失われ、僕を待っていたのは身体を動かすことが出来ずにベッドの上で過ごす生活。 しかし驚いたことに、そんな中でも雀の涙程も無いであろう感覚が気配らしきものを察知していたのか、直感的に自分の置かれている状況や周囲の様子を朧げながらも把握出来たのは幸いだった。 時おり自分の脇で家族が泣いていたのが伝わってきた時、何も出来ないのがとても辛かったけれど。
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