普通の魔法使い、即ち、泥棒

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「それにしても油断したぜ」 そう言いながらバネがいい仕事をするソファーに座る霧雨さん。 僕もそれに倣って近くにあった椅子を引き寄せる。 「こんな弱そうな優男にしてやられるなんてな」 「ひどい」 いや、確かに筋肉質ではないし、小柄で草食系っぽいと言われるような容姿ではあるけども。 面と向かって言わないで欲しい。 純粋に傷付く。 「でもどうやって私からこれを盗ったんだ?」 そう言って例の謎の物体Xを振る霧雨さん。 まあどうやってと聞かれたら答えてあげるのが世の情けだろう。 「能力」 「何の?」 「動かす程度の」 「納得だぜ」 納得してもらえて何よりです。 「ところで、だ」 「何ですか?」 「お茶と一緒に出すのは煎餅で頼む」 「……」 何と図々しい。 でも、霖之助さんの知り合いではあるそうだし、それくらいなら勝手に出しても怒られないだろう。 「待ってて」 席を立つ僕。 「早く頼むぜ」 黙らっしゃい。 お茶と煎餅をお盆に乗せて戻ると霧雨さんがまた店の物を物色していた。 とは言っても、用意している間に分かっていた事だし、今回は盗む気もなさそうだ。 僕はお盆をテーブルに置く。 「おお、ありがとう」 この人もお礼が言えるんだ。 なんて考えつつ、テーブル近くに椅子を引き寄せ座る僕。 霧雨さんも流石にソファーではなく、椅子を持って来た。 ちなみにこれらは全て店の品物だったり。 なんだかんだで僕も霧雨さんの事は言えないのかもしれない。
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