初めての人里

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幻想郷も冬へと近付いて寒さが身に染み始めた今日、僕は先日の件で霖之助さんと共に人里へ行くこととなった。 まるで遠足を前にした子供のような気分で昨夜は落ち着きなく過ごしていた訳で、行く直前となった今はそれが有頂天なのであります。 「準備は出来たかい?」 「はい」 すみません、本当は心の準備がまだなのです。 「では、行くとしようか」 「はい」 ところで、今更でかつ唐突ではあるが、今僕が着ているのは霖之助さんから頂いた紺色の和服である。 それもお手製の。 流石に幻想郷に来た時の服ではいられないからね。 そして瞬きをしないのはあまりにも気味が悪いので、目は常に閉じていることにした。 道中。 「霖之助さん」 「なんだい琢磨君?」 「最初は何処へ?」 「人里へ着いたらかい?」 「はい」 相変わらず言葉が足りない僕の意思をしっかりと汲み取ってくれた。 ありがたや、ありがたや。 「そうだね、まずは琢磨君に家を譲ってくれた方の所へ挨拶に行くとしようか」 「はい」 「その後に仕事先の様子見。余裕があれば人里の案内もするよ」 「ありがとうございます」 ふむ、楽しみだ。 「ほら、そろそろ見えてきたよ」 「……見えません」 「ああそうか、普段はまるで違和感がないからすっかり忘れていたよ。すまない」 「いえ」 確かに普段生活する分には問題がないから忘れてしまうのも無理はない。 僕は近くの物なら分かるが遠くの物は全く分からないのだ。
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