初めての人里

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「ここは活気に溢れた所だろう?」 そう語りかけてくるのは霖之助さん。 確かに道行く人達が皆明るく、里全体が活気に満ちている。 人が、生きている、ではなく、活きている。 それは暗くなりつつある現代で過ごしてきた僕にはとても新鮮で。 観察に夢中になりすぎてうっかり迷子になってしまいそうだった。 この歳で迷子なんて恥ずかし過ぎる。注意しよう。 「琢磨君そっちじゃなくてこっちだよ」 考えた側からやらかした。 時は飛び。 目的地に到着。 目の前にあるのは見るからに新しい家。 「ごめんくださーい!」 そしてその戸を叩く霖之助さん。 「今行きますよー!」 それに答えて聞こえてきたのは女性の声。 何かを片付けていた様子だが、暫くすると慌ただし気に出て来てくれた。 見た目、普通の優しそうなおばさん。 太っ腹ではなかった。 「はいはい、何の御用でしょう。ってあら、この間の」 「先日はどうも」 そう言って頭を下げる霖之助さん。 僕もまたそれに倣い頭を下げる。 「あらあら、いいのよ別に。使わないから壊しちゃうつもりだったし。で、坊やがあの家を使うの?」 そう言って、少し屈んで僕に目線を合わせるおばさん。 確かに僕は背が低いし顔が幼いと言われるけど。 仮にも高校生だったんだ、坊やと言われるのは恥ずかしいものがある。 「はい」 「あら、可愛い坊やじゃない。それよりごめんなさいね、こんなおばさんが使ってたボロボロの家で」 「いえ、ありがとうございます」 「別に気にしなくてもいいのよ」 やはりこの人もいい人だ。
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