初めての人里

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「そうだ、案内するからちょっと待っていておくれ」 そう言って引っ込んでしまった優しいおばさん。 どうやら着替える為に戻ったようだ。 障害物に関わりなく周囲を把握してしまう能力のせいで、頭の中におばさんが着替えている状況が鮮明に浮かび上がってしまった。 これは犯罪に入るのだろうか。 とは言え、これは香霖堂にあったいかがわしい雑誌で確認済みなのだが、僕にはそういった類の欲望すらも消えてしまっていたようで。 正直何も感じないのでセーフだと信じたい。 男として失ってはいけないものを失ってしまった気はするが。 「さて、待たせちゃったわね。じゃあ行きましょう」 家から出て来たおばさんは外行きと思われる服装に着替えていた。 が、さっきとの違いが分からない。 とりあえずそれはそれとして、今はおばさんについていこう。 おばさんに付いて行ってたどり着いた先には、思ったよりも立派な一軒家が建っていた。 というか、これの何処かボロいというのか。 僕一人で住むのがもったいないくらいだ。 それに立地も悪くない。 「立派な家ではないですか」 同様の感想を抱いた様子の霖之助さん。 「そうかい?そう言ってくれると嬉しいよ」 そう言っておばさんは小さく笑うと、僕達を家の中に招いた。
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