初めての人里

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「ここが玄関さ。狭いけど勘弁して頂戴ね」 そう言う割には広い玄関。 ここに僕の靴だけが置かれることを考えると少し寂しいものがある。 「じゃあ次は居間に案内するよ」 しっかりと靴を脱いで付いていく。 「ここが居間。広さは十分だと思うよ」 「おお……」 思わず声が漏れた。 家具を置けば狭くなるとは言え、下手をすれば香霖堂の居間より広いかもしれない。 本当、僕一人にはもったいないぐらいだ。 「他には台所や風呂場、部屋も少しあるから自由に見てみるといい」 広い。 何という驚きの広さ。 もう豪邸と言って差し支えないだろう。 とりあえずは自由に見せていただくことにしよう。 霖之助さんは台所を見に行くと言ってそちらへ一人で行ってしまった。 なら僕はまず風呂場、かな。 「凄い……」 いや、本当に凄い。 薪を焼べて沸かす方式の風呂のようだが、広さが僕が現代で住んでいた家よりも広い。 風呂好きな僕としては嬉しい限りだ。 「ねぇ坊や、聞いてもいいかい?」 「はい?」 素晴らしい風呂場に一人で感動していると、僕の様子を見に来たであろうおばさんが質問をしてきた。 「坊やはその身体を不便と思わないのかい?」 ああ、それも聞いているのか。 不便と言えば不便ではあるかもしれないけど、気になる程ではない。 むしろ便利な部分も多い。 それを伝えるとおばさんは僕の事を健気な子だと勘違いしたのか、いつでも頼っていいからね、と僕を励ますかのように言うのだった。
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