初めての人里

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「はあ……」 当てつけに、再びわざとらしく溜息をついてみる。 「ほっほ、そう落ち込むな琢磨君。まあ安心しなさい、給料はしっかりと弾ませてもらうからね」 「いくらですか?」 一応聞いてみる。 「そうだな……。大人と同じく一日二百四十文でどうかね?勿論仕事は荷物運びだけだ。悪くないだろう?」 悪くない。 むしろ良い。 僕が仕事に入ればまず午前中に、少なくとも昼くらいには終わだろうる。 詳しく聞くと、今までは朝6時頃から初めて午後3、4時に終わっていたようだし。 単純に倍の人数を雇ったくらいの人件費を僕一人を小僧二人分の賃金で雇うだけで仕事の効率を倍に出来るのだ、おじさんとしても得だろう。 互いに、そして周りも得をする関係。 理想的な関係だ。 これ以上を望むのは贅沢というものだろう。 まだ見ぬ寺子屋の教師さんや、警備のおやっさんには申し訳ないが、僕はここで働かせて頂くとしよう。 「よろしくお願いします。旦那様」 「交渉成立、ですな」 後でその教師さんとおやっさんに謝らないとなぁ…… 「ところで、琢磨君はいつあの家へ引っ越すのですかな?」 ああ、そういえばまだ詳しい日程を決めていなかったか。 「どうするんだい琢磨君?」 とりあえず出来るだけ早い方がいいだろう。 「来週までには」 「分かりましたぞ。では来週の明日になったらまた来てくれ、琢磨君」 「はい」 「番頭、見送りを。」 旦那様が呼んだのは、黒幕疑惑のある番頭さん。 少し非難めいた視線を向けたいが表情的に僕には無理だ。 「分かりました。ではお二方、こちらへ」 とにかく、色々とあったがこうして僕の仕事は決まったのだった。
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