初めての人里

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そして。 終始笑顔だった旦那様と番頭さんに見送られながら、寺子屋に向かうべく店に背を向け霖之助さんに付いて再び歩き出した僕は、教師さんに会うのが少し憂鬱になりつつも足を止めずに動かしている。 途中、少し遅い昼ご飯を食べるか否かを相談したが、僕たち二人の妖怪、まあ霖之助は半分だが、それにとって食事は趣向品としての意味しかないからと、帰りに茶屋で団子でも食べていくという結論に落ち着いた。 僕も人里の雰囲気に慣れ、辺りを忙しなく見回したり迷子になりかけたりもせず、寄り道もしていないので今回は順調に着く事が出来そうだ。 「霖之助さん」 道中無言というのも寂しいので、慣れない事ではあるが自分から霖之助さんに話題を振ってみる。 「教師さんはどんな人?」 「そうだね、真面目な人って印象が強い女性かな」 振向くことなく答える。 後ろ向きで歩けばぶつかること請け合いだから当然か。 「女性なんですか」 以前の担任が男性だったからか、勝手に男性だと思い込んでいた。 「ああ。人里のアイドル的存在の人だね」 「そうですか……」 きっと男子生徒が多い事だろう。 「それに、歴史の編纂家でもある」 「ヘンサンカ?」 語感的に歴史を纏める人なのかな。 「資料とかを整理して書物に纏める人の事さ。僕も彼女と親しい訳ではないから詳しくは知らないけどね」 おお、大体合ってた。 しかし、五感がない僕でも語感はあるのか。 こりゃめでたい。 ……僕はオッサンか。
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