初めての人里

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「しかし残念だ。君が手伝ってくれれば大分楽になるかと思ったのだがな」 残念そうな慧音先生。 「やはり仕事は大変で?」 「いや。大変と言うか、な」 何だろう。 少し歯切れが悪い。 「ある事情で私は一ヶ月に一度、それまでに溜まった仕事を一気に片付けるのだが」 つまり一ヶ月分を一日で片付けるのか。 それはもう大変なんて言葉では足りないようなレベルだと思う。 そしてそれが出来てしまう先生の能力の高さも異常だ。 先生も何かの能力があるのだろうか。 「それがこう、ストレスになるというか、とにかく気が立ってしまって。ちょっとした悪癖が出てしまうんだ」 そんなに働いていれば仕方ない事だろう。 「そして、その悪癖というのが、その、頭突きなんだ」 頭突き? 思わずまた先生の頭に視線を向ける。 「しかし先程授業で……」 「ん?ああ能力で分かっていたのか」 「はい」 「いや、あれは宿題を忘れた生徒への愛の鞭としてだ」 愛の頭突きですね、はい。 「しかし、その日に限ってはそうでなくてな。恥ずかしい事にストレス解消として頭突きをしてしまうんだ」 なんと、教師にあるまじきかな。 「いや、満月の日だけとは言え私も困っているんだ。自分では歯止めが効かなくてな」 だから悪癖と言ったのだろう。 しかし満月とは。 もしかして先生はまさか。
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