人里、再び

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翌日の朝。 「霖之助さん、今までお世話になりました」 僕はいよいよ引っ越しの時を迎え、居候から家持ちへとランクアップを果たそうとしている。 少し寂しいが、今生の別れでもないのだからいつでも会いに来れるだろう。 「いや、僕も中々新鮮な体験が出来て楽しめた。それよりこれからの季節はより寒くなるからしっかりと暖かくするんだよ。では、また来なさい」 「はい。では、ありがとうございました」 僕は深く一礼し、香霖堂を後にする。 さて、やっとスタートラインに立ったって所かな。 これからは今までのように霖之助さんに頼ってはいられない。 自分で何とかしていかなきゃ。 だからと言って全部一人で何とか出来る訳ないから、人里の一員として多くの人と支え合って生きていこう。 そして勿論、妖怪とも。 そう決心して歩き出した僕。 でもこの時の僕は、あんな事が起こるなんてこれっぽっちも考えていなかったんだ。 まさか、道中でその考えがいとも簡単にひっくり返されるなんて。 という道中にならない事を祈る。 幸いにして不幸は起きず、僕は人里へ辿り着いた。 いや、本当に何も起きなくて良かったよ。 そう安心していると、警備のおやっさんが近付いて来た。 「おう、坊主。今日からお前もここに住むんだったな」 「はい。おやっさん」 幾度も入口を行き来して会話するうちに、心の中での呼び名で呼んでしまうくらいおやっさんと親しくなってしまった。 最初は苦手だったが、ゆっくり話してみると意外にも気遣いの出来る人で、今はもう頼れるおやっさんだ。 身体を鍛えさせようとしてくるのが玉に傷だが。
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