人里、再び

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「あの、どうされました?」 「あ、すみません」 おっと、彼女の和みパワーにすっかりやられてしまっていたようだ、気をつけねば。 「お薬が必要で?」 「いえ、そういう訳では」 「では永遠亭に御用があるのですか?見た所盲目の方のようですが」 「永遠亭?」 何ですかそれ。 人里の薬局か何かですか? 「ご存知ないのですか?」 「はい、すみません」 何を隠そう今日人里に越して来たばかりでして。 「里の医者で直せなければ永遠亭に行けと言われる程度には有名になっていると思っていたんですが……」 ああ、病院ですか。 「しかし、それならどんな御用で私に?」 流石に不審がられてしまった。 耳が気になったからとは言いたくないが、他の理由が思い付いた訳でもないから正直に白状してしまおう。 「すみません。耳が気になって」 「耳、ですか?」 引かれている訳ではないが変な人を見るような目付きになった。 僕は変人じゃない。ただの動物好きの一般人です。 だからその目をやめて。 「耳の事を聞かれたのなんて久しぶりですよ。それなりに里には訪れているつもりでしたし」 「僕は最近里に住みはじめたので」 「最近?失礼ですがそれまではどちらに?」 「外の世界に」 「ああ、外来人の方でしたか。それなら納得です」 おお、変人を見る目付きじゃなくなった。 外来人で良かった。
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