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「そういえば兄さん」
何かを思いついたように発せられた小僧の問いが僕に向かって飛んでくる。
「兄さんって物を浮かせたり動かしたり出来るんだよな?」
「うん、それは見ていた通りだよ」
「じゃあさ、人も浮かばせたり動かしたり出来るのか?」
「人を?」
その発想はなかった。人を浮かばせるなんて考えもしなかったことだ。
もしそれが可能なら自分を浮かばせて、「そーらを自由に飛―びたーいなー」、っていう例のあれが実現できるということなのか。
なんというロマン。
「もし出来るんだったらオイラも飛ばしてみて欲しいんだけど、ダメ?」
「試したことないからダメ」
迂闊に能力を人に試して何か悪影響があったら取り返しがつかない。
「じゃあオイラで試していいからさ、頼むよ!」
「何かあったらどうするの」
「母ちゃんみたいなこと言わないでくれよ。一度でいいから飛んでみたいだけなんだ。この通り!」
そう言って深く腰を曲げる小僧。
こんな往来のど真ん中でやめて欲しいものだが、こればかりは譲れない。
下手をすれば命に関わる可能性もあるかもしれないのだ、そうホイホイと安請け合いしていいようなものではないのである。
「ダメ」
「こんなに頼んでも?」
「ダメ」
「えー、なんでだよー?」
「危ないかもしれないから」
「少しくらいならきっと大丈夫だって」
ここまで食い下がってくるとは、どれだけ飛行願望があるのだろう。
確かに人間の身一つでの単独飛行は人類共通の永遠の夢ではあるけれど、だからと言って首を縦に振るつもりはない。
まだ成功するかもわかっていない上に、僕の能力が通常の人体にどのような影響を与えるかも分からないのだから。
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