初仕事、初給料、初飛行

10/10
前へ
/91ページ
次へ
抗議の音波を馬耳東風で流しつつ、慧音先生がいる教室の窓へ。 途中で生徒達の近くを通った時に、見かけないからだろう、色々と僕たちの事を噂しているようだ。 例えば、あの人目を閉じて歩いてたとか、あの子誰だろうとか。 そんな風に噂されれば居心地も悪くなるというもので、騒がしかった小僧もおとなしくなり、僕へ隠れるようにして歩いていた。 「慧音先生」 「ん?ああ、琢磨君かどうしたんだ?」 「この子の事で」 先生を窓際に呼び、視線を避けるように僕の後ろへ隠れていた小僧を先生の前へと押す。 「ああ、君か。今日から寺子屋に通えるのか?もう道具の準備は出来ているから午後からでも授業には出られるぞ」 「あの、えと……はい」 「そうか!それは良かった!では今日から一緒に頑張ろうか!」 「……はい!」 元気よく返事をする小僧。念願の寺子屋に通えるからか、とても嬉しそうだ。 僕は正直勉強が嫌いなので通いたいとは思わないけれど。 「で、琢磨君は付き添いかな?」 「はい。それと、手伝いの件で」 「おお、手伝ってくれるのか!とにかく立ち話もなんだろう、表の方から中に入って来てくれ二人とも」 指示に従い正面玄関から中へ入ると、慧音先生は自分の仕事場へと僕たち二人を通してくれた。 「さて、これが君がこれからの授業で使う道具だ。大体は教室に置いていってもいいが、宿題が出た時は宿題に必要な物と一緒に持ち帰るように」 その言葉と共に小僧が渡されたのは、教科書の束やら何かの箱やら布袋やら。 その光景を見ていると思い出す、自分の学校生活。 学年が上がる度に沢山の教科書を渡されて、無理矢理に鞄へと詰め込んで持ち帰ったものだった。 とは言えそれも既に戻らない昔の事、別に思い出して悲しくなった訳ではないが懐かしむのもそこそこにしておこう。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加