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と、呆けていると数十メートル先で巨大な城門が開く音がした。
音につられてそちらの方に目を向けてみれば、入都の手続きをようやく済ませた御者が馬車に戻ってきているところだった。
少し遠くから見える城門の内部には白亜色の石畳が広がっていて、早朝であるにも関わらず城壁の近辺を歩く街人の姿がちらほら見受けられる。
今日はこの都市国家で豊穣祈願の祭りが開かれる。
『祭りに必要な物資を運搬する馬車の警護』。これにて仕事は終わりだが今後の仕事の予定は皆無に等しい。それに胸のつっかえが取れない。
気晴らしに祭りでも見ていくか、とあまり深く考えないように努めるウィリアムだったが、馬車を城壁内へ誘導する御者の一言で胸中に渦巻く霧は更に濃くなる事に。
「魔法剣師さん、あんたの腕を見込んで他の仕事も依頼してえんだが……いいよな? たしか金が山ほど必要なんだろ? なあに簡単さ。ちょっと面倒くせえ人探しと──さくっと稼げる殺しだよ」
城門通過の際、ウィリアムは自分が一体どんな顔をしているのか分からなかった。その代わりと言ってはなんだが、門番の声だけはしっかりと聞こえていた。
「ようこそ、都市国家アザリアへ」
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