序 章 炎の剣と黒傭兵

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 躍動する四肢。  風を切る銀毛。  断続的に聞こえてくる獰猛な息。  野生する狼の精霊シルバリオンの群れだった。  五、六頭で行動をするシルバリオンの性格は極めて凶暴。群れのリーダーは他の個体よりも一回り以上大きい。また、獣型の精霊でありながら精霊魔術を行使する。  先ほどの突風は、シルバリオンが放った風の精霊魔術だったのだろう。  魔術に巻き込まれた木箱数個が宙に投げ出され、地面に叩き付けられてグシャリと大破した。箱の中からは大量の林檎が。しかし狼の群れはそれには目もくれず、全速力で馬車に向かってくる。  シルバリオンは肉食。人間と馬が狩りの対象となっていると見てまず間違いない。少し頭のいい精霊や動物であれば、まずは高速移動が可能な足から切り落としていくのだが、幸いにもシルバリオンはあまり賢い種類では──と逡巡していると馬車を引く馬二頭の内、一頭が狼の邪爪を受けて倒れ込んだ。  馬はそのまま車輪のシャフトに挟まり、ボキリと首の骨が折れる音を最後に動かなくなった。  それに連動して馬車の速度が一気に落ちる。
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