序 章 炎の剣と黒傭兵

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 ウィリアムは自分の掌を見て嘆息する。  あの時、一瞬とはいえ眠ってさえいなければあの牡馬が死ぬことはなかったのではなかろうか、と。  依頼人である御者は確かに目的地まで送り届けた。  人間は生きている。だがここに辿り着くまで尽力してくれた馬は守ることができなかった。  では、人間さえ守ることができればそれでいいのか?  ウィリアムは傭兵だ。シルバリオンの群れを屠ったように命を殺める時もある。その対象がたとえ人間であったとしても例外ではない。  傭兵にとって殺しは仕事だ。しかし、むやみやたらな殺生は良くないという事ぐらいは理解している。  殺す時は殺すし、守る時は守る。そこには単純な選択肢の中、幾ばくかの要素が絡んだ時に不思議な感情が芽生え出すものだ。人はそれを情と呼ぶのだけれどウィリアムにはその情の根底に存在する答え染みたものを知らない。というよりも、表現することができなかった。  殺める事、守る事。  明確な位置づけはいらない。ただ単純に、明確な仕分けがしたい。そうでもしなければあの約束が果たせるかどうかも分からなくなりそうで。
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