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その女性は目を閉じていた。
皺を寄せている真直ぐで彫りの深い眉間には脂汗をかいている。
彼女は全身の力を使ってかすかな気配を感じとっていた。
やがてゆっくり目を開けた。
閉じられていたまぶたの下の瞳は淡く濁ったプラチナ色であった。
目の下の細かな皺は、彼女の歳というより疲れや苦労やそういう類の重みが感じられた。
「感知できましたか。」
側にいた男が口を開いた。
女性は彼の黒ずくめの姿を見て重々しく口を開いた。
「消えてしまった…。
どうやら準備は出来ている様だね。
セシル、今すぐ実行してちょうだい。」
男は了承した様に軽くうなずくと、口の中で何かを素早く呟いた。
すうっと男の体が霧の様に薄くなり、瞬きした時にはその場から消えていた。
「待っているわ。我が子たち…。」
女性は深刻な顔で呟いた。
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