白くて冷たい

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「え、あ、は?」 素っ頓狂な声。初めて聞く声だ。混乱がまだ解けていないのか、表情が、目線がコロコロ変わっている。 「ルール通り、ジュースおごってよね」 退屈だ、という理由で始まったこの遊び、というか勝負。毎週の当番の度にやっているのだから、もう何度目だろう。そして何度負けたことだろう。 だが今日、ようやく彼女に勝つことができたのだ。少々卑怯な手だった気がするが。 しかしやっと落ち着いた様子の彼女からもたらされたのは、負けを認める言葉でなく、無言の暴力だった。具体的に言うと、近くに置いてあった本で頭を叩かれた。それも角で。 「許さないからね」 怒られるのは覚悟していたが、彼女から伝わってくるのは怒気というよりも殺気だ。まさかここまでとは。 「ま、勝負は勝負だからね。さ、ジュース買いに行こう」 立ち上がった僕を彼女が実に恨みがましい目で見ている。言っては悪いが、可愛らしい威嚇だ。 「あ、それと一つ言っておくけど……僕、嘘はつかない主義なんだ」 そう言って僕は彼女に背を向ける。 もうダメ。無理無理無理限界。 きっと今、僕の顔は可笑しい程に真っ赤だろう。あんなことを言ったうえ、至近距離でまじまじと彼女の顔を見てしまったのだから仕方がない。よくここまで平静を装えたものだ。 火照った顔を冷やすため、僕は暖かい図書室から冷たい廊下へそそくさと足を踏み出すのであった。
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