706人が本棚に入れています
本棚に追加
目の前には真っ青な空が広がっていた。
(綺麗な空だなぁ)
一人の人間が、森にごろんと横になり、空を見上げた。
透き通るように白い肌に、切れ長の黒い瞳。中性的な顔立ちで、見た目だけでは性別はわからない。
その者の衣服は、男物の袴だった。
そんな、彼の表情は眉間に皺を寄せ、苦悶に満ちていた。
「ダメだな…。何も思い出せない」
彼のポツリと呟いた言葉は空へとすいこまれた。
今の時代が、1863年だということはわかる。
思い出せるのは自分の名前が有村翔(ありむらつばさ)だということ。
所持品は大小二本の刀のみ。
刀を所持しているということは、自分は武士なのだろうか。
刀には桜の紋章が掘られている。
自分のことだけが、思い出そうとしても頭に靄がかかっているようだ。
最初のコメントを投稿しよう!