拾七

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声のしたほうでは、人だかりができていた。 「すいません」 人ごみをかき分け、中に行くと、女性が一人、顔面蒼白になりながら腕を抑えていた。 その抑えた腕にあてた布は真っ赤に染まっている。 その女性を見て、翔は一度立ちすくむ。 「大丈夫ですか?」 後から追いかけてきた、沖田が素早く女性に駆け寄る。 翔もはっとして、女性に駆け寄った。 「だいじょうぶです・・」 女性は、にこりと弱弱しく笑みを見せながらうなずいた。 「あなたを切った者はどちらに去っていきましたか?」 「あちらに・・・」 女性が指差した方向は暗く、人通りも少ない路地裏だ。 立ち上がって行こうとした沖田の袖を、女性はつかむ。 困ったのは沖田で、その手を優しく振りほどこうとした。 「あ、私、行ってきます」 翔は言うなり。、路地裏のほうへと行ってしまった。 「あ、ちょ、有村さん」 制止する沖田の声など聞かず、走っていく。 「そばにいてください。私・・・、怖いんです」 上目づかいにうるんだ瞳でせがむ女性。 はぁ、と沖田はため息をついて、後ろにいた民衆の男性に話しかける。 「すいませんが、ぼくの代わりについててもらえます?」 「あ、はい。喜んで」 「嫌です。私、沖田さんが・・・」 「僕、名乗りましたっけ?」 沖田の言葉に女性ははっと口をつぐんだ。 沖田は、今日は非番だ。隊服を着ているわけではない。 もちろん、新選組の存在は有名だから、知っている可能性もなくはないのだが。 沖田は、翔の態度のおかしさに気付いている。 「すいませんが、あなたに興味はないので失礼しますね」 にっこり笑顔できっぱりと言い放ち、呆然とする女性をおいて、沖田は翔の後を追いかけた。
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