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路地裏に入りながら、翔は己の口の中が乾いているのを実感する。
緊張、しているのか。
先程いた女性は、ゆずと呼ばれた彼女に間違いない。
ということは、この近くに…。
直感で、翔は立ち止まり、後ろに飛ぶ。
「残念。逃げられちゃった」
たいしてそう思ってはいないような声で、つぶやく。
「今度は自分の彼女がおとりですか。ずいぶん落ちたものですね」
冷ややかな、翔の視線の先には、桂が立っていた。
「期待に添えなくて残念だけど、彼女自身の提案だよ。俺は止めたんだけどね」
抜き身の刀が鈍く光り、翔に迫る。
「くっ…」
重い。
桂の刀をなんとか受け止めながら、はじき返した。
最近、まともに刀を使ってなかったからな。
翔は肩で息をつき、刀を構え直した。
「…気に入らないね」
その様子を静かに見下ろしながら、桂は言う。
「伊東に抱かれたんでしょ?
女であるなことを利用するなら、花魁にでもなりなよ。
女である君が、刀を持つこと自体、俺は気に入らない」
口元は笑いながらもその目はひどく覚め切っていて、翔は背中にゾクリと悪寒が走るのを感じた。
「その上、前回は…」
桂ははぁと、息を吐いた。
「君を殺すよ。有村翔」
その瞳が、まっすぐ翔を捉えた。
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