拾七

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路地裏に入りながら、翔は己の口の中が乾いているのを実感する。 緊張、しているのか。 先程いた女性は、ゆずと呼ばれた彼女に間違いない。 ということは、この近くに…。 直感で、翔は立ち止まり、後ろに飛ぶ。 「残念。逃げられちゃった」 たいしてそう思ってはいないような声で、つぶやく。 「今度は自分の彼女がおとりですか。ずいぶん落ちたものですね」 冷ややかな、翔の視線の先には、桂が立っていた。 「期待に添えなくて残念だけど、彼女自身の提案だよ。俺は止めたんだけどね」 抜き身の刀が鈍く光り、翔に迫る。 「くっ…」 重い。 桂の刀をなんとか受け止めながら、はじき返した。 最近、まともに刀を使ってなかったからな。 翔は肩で息をつき、刀を構え直した。 「…気に入らないね」 その様子を静かに見下ろしながら、桂は言う。 「伊東に抱かれたんでしょ? 女であるなことを利用するなら、花魁にでもなりなよ。 女である君が、刀を持つこと自体、俺は気に入らない」 口元は笑いながらもその目はひどく覚め切っていて、翔は背中にゾクリと悪寒が走るのを感じた。 「その上、前回は…」 桂ははぁと、息を吐いた。 「君を殺すよ。有村翔」 その瞳が、まっすぐ翔を捉えた。
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