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「ずいぶん面白そうな話をしていますね?僕も混ぜてください」
囁くような声が聞こえて、咄嗟に身を翻し、その場を離れた。
何かを感じたわけではなく、桂は直感で身体が動いたのだ。
嘘だろ…。
少し離れた場所から、声のした方を見ると立っていたのは1人の優男。
男はニコニコ笑みを浮かべたままで、おそらく刀を振るったのだろうが、殺気もなにもなかった。
「沖田さん…」
翔から零れた言葉で、男の正体を知る。
なるほど、これが噂に名高い新選組一番隊組長沖田総司か。
桂は納得した。
「有村さん、僕をおいて行くなんてひどいじゃないですか」
沖田はふう、とため息をつくと、子供が遊びに連れつ行ってもらえなかったかのように、軽く言った。
それに対し、すいませんと、また軽く謝る翔。
そして、2人はそのまま視線を桂へと向ける。
「…彼が、桂小五郎ですか?」
沖田の問いに、翔ははい、と小さく頷いた。
なるほど。
本来であれば、床にふせり、戦線離脱していたはずのこの男。
敵として見て、戦略的にいえば、その方が助かるのだろうが。
彼が、吉田を殺した男なのだ。
桂はなぜか、高揚する自分に気づく。
刀を交えてみたいと思える相手だった。
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