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肩口を抑える沖田。
その手と、浅葱色の隊服が、真紅に染まって行く。
「私が反応できたこと、おかしいと思いませんでしたか?」
ザリっと、足元の石を踏み鳴らし、伊東は沖田へと近付く。
「彼女は私の側にいた。あなた達を見張るスパイとして潜りこませていたんですよ」
笑顔を貼り付けながら、伊東は近づいてくる。
考えろ。動揺するな。
翔は、僕にとって…。
思考を始めた沖田を、伊東は獲ったと思った。
肩口を斬ったことにも成功した。
刀を握る力は半減しているに違いない。
振りかぶった刀を、しかし振り下ろすことはなかった。
伊東の胸を、沖田の刀が貫いていた。
「ぐっ…、何故…」
苦悶の表情を浮かべる伊東。
「見くびらないで頂きたいですね。有村さんと約束したんです。
信用すると。誰よりも」
「なるほど…」
沖田が刀を抜くと、伊東は事切れた。
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